わたしは、広島に住んでいた時に
広島の泉美術館という場所で、
笹戸千津子という
女流彫刻家の展覧会を
拝観したことがあった。
その彫刻家の女性は、
彫刻家佐藤忠良氏の
お弟子さんでいらっしゃって
作品のモデルにもなっていた方だった。
その方の講演会に行った時のことだ。
彫刻をしているとは思えないほどに
華奢で小柄な身体。
しかし、その容姿のイメージとは裏腹に
その人の手は驚く程がっちりとしていて、
紛れもなく彫刻家の手だった。
もう何十年も歯を食いしばって、
懸命に手を使って生きてきた人の手だった。
手を握り合った瞬間に、
全心にエネルギーが
ぐわーっと流れ込んでくるような感覚がした。
その瞬間、頭で理解するより先に
私は涙を流していた。
「なんて力強く生きている人なのだろう。」
と感じたからかも知れない。
私の知らない沈黙の時を過ごし、
いつかの先入観にとらわれず、
自らと闘い続けて来たこの人の手は、
ぶ厚く生命力に溢れていた。
手を握りながら、
この人はこの手で、
いろいろなものに触れながら様々なことを観、
その手で形にしながら、
物事の本質的なものを捉え、
向き合ってきた人なのだと思った。
「手は口程にものを言う」なれば、
心で考えて手を動かしていたい。